Q. マルファン症候群とはどんな病気ですか?
A. 結合組織(体の組織を支えたり、力を伝達する働きのある組織)に障害を有することにより、骨格・眼・心血管・肺などのいくつかに症状が現れる先天性の遺伝子疾患です。 症状の出方や程度には個人差があります。 大動脈解離は高齢の男性に多くみられる疾患ですが、マルファン症候群の場合は性別によらず、10代から働き盛りという若い世代にも起きてしまうことがあります。マルファン症候群を知り、必要に応じた定期検診と治療を受けることが、マルファン症候群患者さんの健康と命にとって、とても大切なことです。
Q. どんな人がマルファン症候群にかかるのですか?
A. 性別、人種、住んでいる地域に関係なく、約5,000人に1人の頻度で発症するといわれています。 マルファン症候群全体の75%(3/4)の人は、親からの遺伝です。 残り25%(1/4)は、マルファン症候群ではない親から生まれます(やはり遺伝子の変化です)。 ※卵子、または精子の形成過程に、たまたま遺伝子の変化がおこることを新生突然変異といいます。これにより、マルファン症候群を持たない親同士からも、マルファン症候群のお子さんを授かることがあります。
Q. 親から子に遺伝する確率はどれくらいですか?
A. 両親のいずれかがマルファン症候群の場合、その子どもに遺伝する確率は50%です。 (常染色体優性遺伝形式) ※世代をまたいで発症することはありません。親がマルファン症候群で、子が違う場合、その子の子ども(孫)はマルファン症候群にはなりません。もしも隔世遺伝のように思われる場合は、子の代の症状が軽い場合が考えられます。
Q. マルファン症候群になる原因は何ですか?
A. 遺伝子の変異が原因です。 おしえてマルファン10ページの図 マルファン症候群の原因となる遺伝子は、フィブリリン1(FBN1) といわれる遺伝子です。体の設計図である遺伝子に変異があり、そのために全身の結合組織が障害を受け、伸びたり、曲がったり、もろくなったりすることで症状があらわれます。 その他、フィブリリン1だけでなく、TFG-β(ベータ)受容体1、2などの遺伝子が変化して、TGF-βという細胞の働きを調節するシグナルの過剰活性化により結合組織を脆弱(ぜいじゃく)にすることにも判明しています。(別の原因が似た症状を引き起こすことも知られています:ロイスディーツ症候群の頁参照)未解明の原因遺伝子の存在も疑われています。<
Q. どんな症状が出るのですか?
A. 細胞と細胞をつなぐ結合組織が弱くなるため、水晶体偏位、近視、側弯、鳩胸または漏斗胸、寛骨臼突出症、自然気胸、大動脈基部の拡張や大動脈解離、僧帽弁逸脱症、硬膜拡張、肘関節伸展障害、後足部変形、皮膚線条(妊娠線やひび割れ線)などの症状がいくつか現れます。外見は、高身長、やせた体格、細くて長い指が特徴的と言われていますが、必ずしも当てはまらない方もいます。
Q. 全部の症状が現れることがあるのですか?
A. これらの症状は年齢を重ねるごとに現れてきます。ですが、人によって現れる症状は異なり、症状の程度にも非常に幅があります。 ひとりの患者さんに、ここにあげられているすべての症状が出るわけではありません。 気になることがあれば医師にご相談ください。
Q. マルファン症候群の検査と診断は、どのようにするのですか?
A. レントゲン写真、心エコーやCTやMRI検査、眼科的検査などが行われ、家族歴や病歴などから総合的に診断されます。遺伝子検査は参考になります。 詳しくは、世界的な診断基準(2010年の新ゲント基準)を用いて診断されます。⇒2010年の新ゲント基準 日本人のの場合の診断もこの基準を元に行われますが、現在、内容の検討が進められています。
Q. 各症状の管理や治療は、どのようなことをするのですか?
A1. 心臓や血管について 心エコーやCT、MRI等の検査を、年1回受けて、経過観察をしていきますが、症状の程度により、検査の間隔は違います。 大動脈がふくらんだり、破れたり裂けてしまわないように、血圧を下げたり安定させるために、薬を飲むことがあります。 ふくらんでしまったり、裂けてしまった大動脈は、人工血管への交換が必要な場合があります。 血液の逆流など弁の働きが悪くなったら、弁の悪い部分を作り直す手術をします。直せない場合は、ウシやブタの心膜・弁から作られた弁(生体弁)や人工の弁(機械弁)に交換します。 ※外科的な治療が必要な場合、緊急手術と計画手術では、命の危険やその後の回 復が大きく違ってきます。時期を逸しない治療が大切です。
A2. 骨格について 背骨がこれ以上曲がらないように、装具をつけたり、金属で固定する手術をすることがあります。成長期は、3~4ヶ月に1回、定期検診を受けます。 漏斗胸の凹みの程度が大きかったり、美容上治したい場合は、平らにする手術をします。 足首を安定するために、靴に中敷きを敷いたり、装具や特別な靴を使うこともあります。 股関節の痛みがひどい場合は、人工関節にする手術をします。 背中や腰、足の痛みには、温熱や市販の鎮痛剤を用いてもいいですが、主治医に相談するのがよいでしょう。
A3. 目について 視力矯正手術を受けることはやめたほうがいいでしょう。 視力が悪くなったら、メガネやコンタクトで矯正します。近視の強い人は、3ヶ月に1回の定期検診が必要な場合があります。 水晶体がずれたら、水晶体を取り去ることもあります。その場合、メガネやコンタクト・眼内レンズで視力を補います。 緑内障は、目薬を使って治療します。目薬の効果がない場合、または、発作がおきた時には、手術になります。網膜剥離を起こした場合には手術になります。 白内障のある人は、目の紫外線対策にサングラスを使用するとよいでしょう。
A4. 肺について タバコは吸わないようにしましょう。タバコは肺を傷つけます。 気胸になった場合、自宅安静もしくは入院をして脱気をしたり、胸腔手術または開胸手術が必要となることがあります。
A5. 歯について 歯並びが悪いときは、矯正を行うことがあります。マルファン症候群の場合は、指定された医療機関で歯科矯正治療が保険適用になります。⇒利用できる社会保障を参照 お口はいつも衛生的にし、虫歯がないようにしておきましょう。抜歯や歯石除去など、出血のある治療の前には抗生物質を服用し、感染性心内膜炎の予防をしましょう。歯科処置の前に抗生物質の投与が必要かどうかわからない場合は、担当医や歯科医のアドバイスを受けましょう。 ※感染性心内膜炎とは、血液中にはいった細菌などが原因となり、心臓、大血管、弁に炎症を起こす病気です。
A6. 皮膚について 皮膚の萎縮線が気になる場合は、クリームを塗ります。
A7. 硬膜について 拡張が見られ、診断の根拠になりますが、症状が軽い場合は、経過観察をしていきます。 マルファン症候群は一度検査をして、その時に異常がなければ大丈夫というものではありません。マルファン症候群(もしくは疑い)と診断されたら定期的に検診を受け、各症状を早期に発見し、適切な治療と健康管理を行うことが必要です。
Q. マルファン症候群に似た疾患があるのですか?
A. いくつかあります。よく似ているため、マルファン症候群だと間違われる患者さんも少なくありません。・ロイス・ディーツ(Loeys-Dietz)症候群 ・家族性胸部大動脈瘤/解離(Familial thoracic aortic aneurysms and dissections)・エーラス・ダンロス(Ehlers-Danlos)症候群(特に血管型)など
Q. マルファン症候群の名前の由来は何ですか?
A. 1896年(明治29年)に、フランスの小児科医アントニン・マルファン(Dr.Antonin Marfan) (1858‐1940)が、症例報告をしたことから、名前が付けられました。 マルファン症候群は、体の複数の部分に症状を認めることがあるので、マルファン“病”ではなく、マルファン“症候群”と呼ばれます。
Q. マルファン症候群の人は長生きできないのですか?
A. かつてマルファン症候群の患者さんは、40歳までしか生きられないといわれた時代がありました。現在、マルファン症候群の患者さんは、早期の診断と適切な治療により、平均寿命を全うできるようになりました。 しかし、患者自身が「自分はマルファン症候群だと知らない場合」は、昔と同じと言えます。なぜなら、大動脈の変化があっても初めは自覚症状がないため、知らない間に大動脈がふくらんで解離してしまい、対処が遅れ命に関わる危険があるからです。『大動脈解離前の待機手術』と『大動脈解離後の緊急手術』では、命の危険やその後のQOLが違います。 「手術はイヤ!」と思う前に今の医療を知りましょう。