私は、2009年5月に大動脈弁を機械弁に置換する手術を受けました。
手術は、本やテレビなどにも登場する有名な心臓外科医に執刀して頂いたので、不安はあまりありませんでした。手術が終わり、はっきりとした記憶があるのは、翌日の午前に病棟へ戻ってからです。
一番ショックだったのは、手術日は歩いて手術室へ入ったのに、翌日には起き上がるのですら辛いほど体力が落ちていたことです。たった1日寝ていただけなのに!と落ち込んでしまいました。
私が入院した病院では、体力や心機能を回復させるための「心臓リハビリ」を積極的に実施しています。午後にはトイレに歩いていきました。当時の記録を見てみると、翌々日には100m歩いています。「心臓リハビリ」といって、体を動かして、心機能の回復を促すそうです。お腹に刺さったドレーンが抜けるまでは、病棟内を歩きました。11日目には1000m歩いて、階段の昇降もしていました。徐々にではありますが体力が戻ってくる実感がありました。ドレーンが抜けると、リハビリ室でのトレーニングがスタートします。心電図を付けて、運動前・中・後に血圧を測りながらエアロバイクを漕ぎます。理学療法士や看護師の方が付き添って下さるので、気になることがあればすぐに尋ねることができて安心です。
退院したのは術後15日目でした。退院直前は病院内では毎日3kmくらい歩けるようになっていたのに、帰宅するとき最寄り駅から自宅まで約500mを休憩せずには歩けなかった事実に自信を失ってしまいました。 退院しても心臓リハビリは続きます。手術から1ヶ月後には病院で「心配運動負荷試験」を受けました。これは、体力を付けるためにどの心拍数で運動すれば最も効果的かということが分かる検査です。エアロバイクにまたがり、呼吸をモニターするマスクや、心電図、血圧計を付け徐々に重たくなるペダルを限界までこぎ続けるというものです。スポーツ用に市販されている心拍計を購入し、医師から示された目標心拍数で自宅の周りを歩きました。徐々に歩ける距離や時間が延びていきました。同時に、通院による週2回のリハビリも受けました。トレッドミルを歩くだけなので、自宅の周りを歩くのと変わりありませんが、スタッフの方に気になることを聞くことができる機会があるのは、非常に心強かったです。また、電車やバスに乗って通院すること自体がリハビリにもなり、良い気分転換にもなりました。
仕事に復帰したのは、手術から1ヶ月半後でした。産業医の指導の下、午前だけの勤務からスタートし、完全に復帰したのは3ヶ月後でした。 心配運動負荷試験は術後4年間定期的に受け、最終的には同年代の平均的な体力まで戻りました。目標心拍数を定めてトレーニングする方法はプロスポーツの世界でも用いられており、心臓術後の患者にとっても非常に効果的である自らの経験を通じて実感しています。
心臓手術前はほとんど運動する習慣がなかったのですが、心臓リハビリからスタートしたウォーキングは、現在では趣味になり近隣で開催されるウォーキング大会に参加するようになりました。20kmくらいは普通に歩けるようになったので、人生何が起こるかわからないものです。