遺伝医療関係者と報道関係者による合同シンポジウム傍聴報告

5月17日、日本人類遺伝学会と日本遺伝カウンセリング学会共催の「遺伝医療関係者と報道関係者による合同シンポジウム-メディアに求めること、メディアが求めること-」と題したシンポジウムが開催され、協会理事小竹が傍聴してきました。

冒頭、日本人類遺伝学会理事長の福嶋先生による基調講演がありました。ポイントは「日本人は遺伝学が苦手」。理由は、①そもそも学んでいないとい、②日本人には人種的に頻度が高い遺伝子疾患がない、③社会の偏見、④言語の構造上確率の理解が難しい、ということでした。

遺伝子疾患に関して、無知は無関心であるが、少し知ると不安になる。その不安を取り除くのが「遺伝カウンセリング」で、熟知すると自己決定ができるようになる、と説明がありました。

 

シンポジウムでは主に二つの遺伝と医療と関わるテーマが取り上げられました。一つは、ダウン症などを対象とした「新型出生前診断」。もう一つは、遺伝性乳がん卵巣がん症候群(HBOC)などの遺伝性疾患。それぞれ当事者団体から1名ずつがシンポジストとして報告が行われました。

 

ダウン症協会からは、「新型出生前診断」が開始されるとの第一報が新聞に掲載されてからの対応などについて紹介がありました。取材は覚えきれないくらい多数あり、中には、事前にダウン症について勉強せずに取材する記者や、意図的に怒らせようとする記者がいた、とのことでした。また、不正確な報道やインターネットでの誹謗中傷も多くあり、患者や家族が動揺したことから、ダウン症協会は患者向けにチラシを作成したそうです。

 

HBOCの患者会は、昨年5月にできたばかりの新しい団体ですが、各地に支部を作ったり、シンポジウム前日には朝日新聞に記事が掲載されたりと精力的に活動を行っています。アンジェリーナ・ジョリーさんの予防的乳房摘出手術後に不正確な報道がされたという事例が紹介されました。取材を受ける際には記者が希望する時間よりも長く話をして、正しく理解してもらっているとのことでした。

 

メディアからは2名のシンポジストが報告しました。

一人目はNHKのディレクター。「バリバラ」(Eテレで放送中の障害者バラエティ)で「出生前診断」についての特集を作成したときの様子を振り返りながら、報道ではないテレビ番組の作り方について紹介がありました。まず重要なのが「組織の都合で担当するテーマが割り振られる」ということだそうです。また、演出は、「見方を変えることで視聴者に考えさせる」ために必要だとのことでした。

 

二人目は読売新聞の医療担当デスク。出生前診断について各国で取材して連載記事を作成したときのことを中心に新聞記事の作り方についての紹介がありました。担当記者が最初に作る原稿は、一番よく理解している記者本人が作るため、素人には分かりづらいことがあるため、上司が原稿を手直しする課程で当初意図したことと方向性が変わることがあるとのことでした。新聞報道には「事象を単純化して切り取る限界」があるそうです。

 

マルファン症候群は、メディアによって紹介される機会が比較的少ない疾患だと思います。正しい理解を普及させるためにメディアは必要不可欠なツールの一つですので、できれば「メディアの露出」機会が増えれば良いと個人的には思うのですが、一方で、機会が増えれば増えるほど、不正確な報道が増えることが考えられますし、その結果、インターネットを通じて社会の偏見が生まれることも考えられます。

実際、昨年民放のバラエティ番組でマルファン症候群が取り上げられたとき、どのように番組が作成されるのか患者の間で関心を集めました。 メディアが求めるものと、当事者がメディアに求めるものが常に一致するとは限りませんが、私たちの気持ちを代弁してくれる重要な存在であることは間違いないでしょう。

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